連載第2回目:スイスの銀行口座から、相続人はどのようにして預金(外貨預金)を取り戻したのか。

前回に引き続き、スイスの銀行口座(外貨預金)から相続された預金を解約し、海外送金を依頼して取り戻した経緯について紹介します。

前回は、東京の駐在員事務所からスイスの銀行で開設された口座に関しては直接スイスへお問い合わせくださいという連絡をいただいたところまででした。

そこで、当職は、早速、日本の駐在員事務所から教えていただいたスイス銀行のスイス国内の支店宛てに問い合わせの英文手紙を出しました。

スイスの銀行へ出した問い合わせの手紙は以下のとおりです。

DATE: May 20, ××××

FROM: Noboru Kayanurna

KAYANUMA KOKUSAI LAW OFFICE

Mikuni Yotsuya Bldg. 6F, 2-5 Samon-cho,

Shinjuku-ku, TOKYO 160-0017, JAPAN

TO: Swiss ×××,◯◯◯◯ Bank △.△ Branch Avenue ×× Geneva ××, Switzerland
Dear Sir or Madam:

Re: ASSETS IN THE NAME OF (被相続人名)

I am a Japanese attorney-at-law representing (相続人名), successors to (被相続人名) who deceased on the ◯◯th day of △△△△, ××××. I attach hereto a family relationship tree which shows that(相続人名) are the successors to(被相続人名).
(被相続人名) had the following assets in his name at the time of △△/××/○○○○

*PERSONAL ACCOUNT; CHF ×,×××

*MONEY MARKET PAPERS; CIIF ×,×××

TOTAL NET ASSETS; CIIF ×,×××

I attach hereto the copies of the documents showing the details of the above assets.
(相続人名)have requested me to cash the above assets in the name of (被相続人名).

Could you please send me application forms to refund the assets and please advise me anything necessary.
If anything further requires clarification, please advise me.
Yours faithfully,

Kayanuma Kokusai Law Office

(サイン)

per: Noboru, Kayanuma

 

この問い合わせの手紙は、それほど複雑な内容ではありません。

当職が、××年△月○○日に亡くなった方(被相続人)の相続人らを代理する弁護士であることについて、相続関係図(ここでは省略させていただきます)を添付して、はじめに自己紹介しています。

その次の段落では、亡くなった方がスイスの銀行に○○年△△月××日の時点で有していたスイス・フラン預金の内訳を提示しました。もちろん、スイスの銀行が作成した預金口座明細書の写しを裏付け資料として添付しています。

最後の段落では、当職の依頼人となる相続人らが亡くなった方の預金口座を解約して現金化することを求めているので、預金を解約するための解約申込書を送付していただきたい旨をお願いしました。そして、解約に必要なことについては何でもご教示願いたい旨も言い添えておきました。

最後に、何かご不明の点があれば、ご教示ください、という定型文で締めくくりました。

 

この手紙を出してから1ヶ月半ほどが経過して、スイスの銀行から以下のとおり返事が届きました。

Dear Mr. Kayanuma,

We refer to your letter dated May 20,××××, transmitted to us by our TTT Branch in Geneva.

As you are probably aware, Swiss banks are legally bound to observe strict banking secrecy and cannot therefore give any information to third parties regarding any supposing accounts before the necessary documents have been presented.

ln the case of a deceased customer, the following documents are required for each estate:

– the official documents issued by the authority of domicile of the deceased, certifying the death of the customer and the identity of the legal heirs (or the Executor, if any); these documents have to be duly translated by a sworn translator and legalised by the means of the Apostille, according to The Hague Convention of October 5,1961;

– a letter of instructions signed by all the heirs or by the Executor regarding the way the assets are to be disposed of; as their signatures are not known to us, they ought to be certified by an international bank;

– should the heirs or the Executor wish to entrust a third party with the settlement of the Estate, a Power of Attorney signed by all of them in favour of their attorney; their signatures and that of the attorney should also be certified as described above.

Yours sincerely,

△△△△ ○○○(サイン)

 

(日本語訳:意訳)

ジュネーヴにある私どものTTT支店から転送されてきた貴殿作成の××年3月20日付け手紙について述べます。

すでにご存じだと思われますが、スイスの銀行には法律上厳格な守秘義務が課されていますので、必要な書類が提示されないうちは第三者にはいかなる預金口座情報も開示することができません。

亡くなられた預金者の場合には、以下の書類が各遺産ごとに必要となります。

- 亡くなられた方の住居地所管の当局が発行する公的な書面。これは亡くなられた預金者の死亡を証明し、相続人であることを証明する書面です。もし、遺言執行者がいれば、その方の公的な身分証明書が必要となります。これらの書面は、宣誓した翻訳者によって正しく翻訳されなければなりません。その宣誓署名は、1961年10月5日付けハーグ条約に従い、外務省のアポスティーユ(APOSTILLE)により法的に証明されなければなりません。

- すべての相続人ら、または、遺言執行者によって署名された遺産の分割に関する書面。それらの署名は私どもでは確認できませんので、国際的な銀行による署名証明が必要となります。

- 相続人ら全員、または、遺言執行者の署名がある委任状。もし、相続人らまたは遺言執行者が第三者に遺産の取り戻しについて委任することをご希望されるならば、その代理人のための委任状が必要となります。それら全員の署名及び代理人の署名は、上記の通りの署名認証が必要となります。

 

上記回答書において、スイスの銀行が提出を求めてきた書類について、具体的に何をどのような手順で入手し、作成したらよいのか、おおよその見当がつきました。

ただし、「国際的な銀行による署名証明」はどのように取得するのか、がよくわかりませんでした。

そこで、スイスの銀行の東京駐在員事務所に問い合わせました。

そうしたら、公証役場で取得できる外務省のアポスティーユ付き署名証明で足りるという回答がありました。

 

重要なことですので、ここで補足説明をします。

スイスの銀行が求めてきた相続に必要な書類は、日本国内の銀行が相続人らに求める書類とほぼ同じだということです。

国内の銀行等との違いは、預金解約の意思表明や相続関係を裏付ける資料が英文で示される必要があること、そして相続人全員の署名及び代理人の署名が外務省のアポスティーユにより最終的に署名証明される必要があること、だけです。

スイスの相続法が日本の相続法と基本的な考え方が同一であるため、当事務所とスイスの銀行との間の直接交渉のみで、外貨預金の相続による取り戻しができたのです。スイスの法律事務所を間に入れる必要はありませんでした。

 

以上に対して、英米法系の国に所在する銀行に預けられた外貨預金の取り戻しは、本件のようにシンプルには進みません。英米法系の場合については、また別の機会に紹介します。

 

今回の紹介はここまでです。次回は最終回で、日本国内でスイスの銀行から相続預金を取り戻すために準備した書類について具体的に紹介します。

ここまで読んで下さった方にはあらためて御礼申し上げます。