連載第3回目(最終回):スイスの銀行口座から、相続人はどのようにして預金(外貨預金)を取り戻したのか。

前回に引き続き、スイスの銀行口座(外貨預金)から相続された預金を解約し、海外送金を依頼して取り戻した経緯について紹介します。

前回は、スイスの銀行から預金相続に必要な書類について英文による回答書をいただいたところまででした。

上記回答書において、スイスの銀行から提出を求められた書類について、具体的に何をどのような手順で入手し、作成したらよいのか、おおよその見当がつきました。

そこで、当職は、相続された預金の取り戻しに必要な書類の作成・準備にとりかかりました。

実際には、必要書類を準備するのに1年近くがかかりました。A弁護士を介して多数の相続人に当職への委任状(Power of attorney)を作成していただきましたが、ひとつひとつの書類作成が手作業であり、その完成には最終的な署名認証書類として外務省のアポスティーユが必要となるため、時間と手間がかかりました。

東京の公証役場では、外国へ提出する書類の認証手続に精通していて、即日で必要書面が出来上がるのが通常です。

しかし、地方の公証役場では、外務省のアポスティーユが必要となる署名認証の取り扱いが少ないということもあり、その取得手続も当事務所が実質的には「代行」して行ったため、通常の何倍も時間がかかりました。

当職への委任状に各相続人が公証人の面前で署名し、それを公証人が署名認証し、その公証人の職務権限等について当該地方法務局長が認証し、さらに、外務省が「APOSTILLE」(アポスティーユ)のタイトルで始まる英文で当該地方法務局長の署名等を認証しました。

上記委任状には、各相続人がスイスの銀行にある遺産としての預金等をすべて解約し、当事務所名義の日本国内銀行口座に振込送金する方法で預金等の残金を取り戻す権限を当職に与えること、そのほか当該手続に必要となる一切の権限を当職に与えることが明記されました。

当職は、委任状作成依頼等の手続を進めながら、

・亡くなった被相続人の除籍謄本(国際相続では「死亡証明書」の代わりになることが多いです。)の英訳

・当職の宣誓供述書(Affidavit)の作成

などをして、必要書類の準備を着々と進めていきました。

除籍謄本の英訳は、当職が自分で行い、その翻訳が正しいことを公証人の面前で宣誓のうえ署名し、公証人の認証についても最終的に外務省のアポスティーユを付してもらいました。

宣誓供述書は、弁護士自身が自分の責任において、本件の被相続人が誰で、その相続人は日本の相続法に従うと誰であるのか、各相続人の法定相続分はそれぞれどのような割合となるのか、等を内容とする陳述書であり、内容が真実であることを宣誓したうえで、公証人の面前で署名し、最終的に外務省のアポスティーユを付して署名認証してもらったものです。

 

なお、各相続人の取り分が明記された遺産分割協議書が作成されていれば、スイスの銀行ではその効力をそのまま認めてくれるはずですので、これも相続預金の取り戻し手続きに必要な書類となります。そのため、遺産分割協議書のアポスティーユ付き翻訳書を添付して提出しなければなりません。

本件では遺産分割協議書が作成されなかったので、その代わりに、宣誓供述書を作成し、各相続人が日本国法の定める法定相続分で遺産となる預金を当然承継する旨を述べることにしました。

 

最初の問い合わせの手紙を出してからおよそ1年半が経過して、ようやく外貨預金の取り戻しに必要な委任状等の必要書類がすべて準備できました。

そこで、スイスの銀行に相続手続に必要な以下の各書類を添付した最終的な手紙を出しました。

・委任状(Powers of attorney)

・宣誓供述書(Affidavit)

・除籍謄本(CLOSED FAMILY REGISTER)

・日本弁護士連合会の証明書(CERTIFICATE)

 

その英文手紙の要点は、当職が、亡くなった口座名義人の全ての相続人から、口座の解約及び海外送金について委任を受けたので、解約・送金を求めるという意思を表明したことにあります。この手紙の外には特に「払戻請求書」のような定型書面は提出しませんでした。

添付書類の最後に出てくる日本弁護士連合会の証明書(CERTIFICATE)は、当職が日本弁護士連合会(日弁連)に所属する弁護士であることや、当事務所の名称・住所などを日弁連が英文で認証してくれたものです。これにより、スイスの銀行も海外送金先となる日本の金融機関の口座名義人が当事務所の当職であることなどを確認できることになります。

 

上記英文の手紙をスイスの銀行に郵送してから、3週間ほどで、当事務所の口座にスイスの銀行から預金残高全額の振り込みがあり、相続された海外預金を無事に取り戻すことができました。

 

本件の紹介は以上です。ここまでの3回にわたる長文をご覧いただいた方にはあらためて御礼申し上げます。何かのご参考になれば幸いです。