はじめに「海外に預金があるかもしれない・・・。」という方へ
被相続人(亡くなられた方)に海外預金があるかもしれない場合、まずは、その証拠となる銀行からの郵送物などを大切に保管しておいてください。
書類等を頼りに個人の方が海外の銀行にアクセスすること自体が通常困難ですし、また、銀行側の要請に対応することも困難なことが多いでしょう。弁護士でも必要書類を集めて、預金を取り戻すまでには、面倒な書類を色々と作成しなければなりません。
委任状などの必要書類を集めるためには、すべての相続人の協力が必要となったり、様々な手続きもかかわってくるため、なおさら早めに専門家にご相談することをお勧めします。
日本国内の銀行の場合
日本国内にある預金口座を相続する場合に、常に必要となる書類は、戸籍です。戸籍には、全部事項証明、除籍、改製原戸籍など何種類かあります。
・亡くなった方の戸籍
亡くなった方を被相続人と言います。被相続人の戸籍については、「出生から死亡まで」の「全て」の戸籍が必要となります。なぜ「全て」が必要かと言いますと、「全て」の戸籍を見ることで、「全て」の相続人の存在を確認できるからです。
・相続人の戸籍
この相続人の戸籍が必要書類としてあげられることが通常ですが、これは相続人であることを確認するためであり、「被相続人の戸籍」との関連性が当然のことですが必要となります。
そのほかに、遺言書がある場合、遺産分割協議書がある場合、これらの書類が何もない場合など、様々な場合があります。
ここで大事なことは、戸籍のほかに必要となる書類については、亡くなった方の口座がある銀行等の金融機関に早めに問い合わせることです。銀行等により、必要書類が異なってくることがあるからです。
なお、遺言書がない場合は、遺産分割協議書がある場合も含めて、相続人全員の印鑑証明書が必要となります。印鑑証明書は判子が「実印」であることを証明する書類です。3ヶ月以内のものが必要となることが通常ですので、相続手続の時期を見ながら、用意する必要があります。
海外の銀行・金融機関の場合
外国にある預金等を相続により取り戻す場合には、日本の相続法に近い法制の外国の場合と大きく法制度の異なる外国とでは、全く違う展開となります。
①ヨーロッパの大陸法系の場合:包括承継主義
フランス、ドイツ、スイスなどのヨーロッパ大陸にある国の法制(大陸法系といわれています)は日本の制度と近いので(日本が明治維新後に国内法制度を整備するために、主としてドイツ法やフランス法をお手本にしたという歴史的経緯があります)、一般的には預金等の取り戻しがスムーズに進みやすいといえるでしょう。
死亡診断書(通常は、「除籍」で用が済みます。)や戸籍に基づいた相続関係図、遺産分割協議書(分割前で法定相続分による取り戻しの場合は不要となります)などの書類が必要になり、すべて英訳します。これらの書類に英文委任状を添えます。
この英訳については、翻訳者が公証人の面前で翻訳の正確性・真実性について宣誓して署名し、その署名認証については、最終的に外務省のアポスティーユ(APOSTILLE)を付けてもらうことになります。
英文委任状についても、委任者(ご依頼者)が公証人の面前で署名し、アポスティーユをつけてもらいますので、これらの書類作成だけでも結構面倒な手続きとなります。
それでも、預金口座の所在国の弁護士に間に入ってもらうケースは英米法系の場合に較べると格段に少なくなるので、その分、取り戻しやすくなるでしょう。
当事務所が以前扱ったスイスの銀行預金の案件では、先方の銀行と当事務所との間の交渉だけで用が済みました。その経緯はブログにおいて詳細に述べておりますので、宜しかったらご参照ください。
②イギリス・米国などの英米法系の場合:管理清算主義−プロベート手続き
イギリスをはじめとして、かつてイギリスの植民地であった米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、香港、シンガポール、マレーシアなどの国々においては、相続手続についての考え方が我が国とは大きく異なり、一般的にプロベート裁判所が遺産の分配に深く関与する非常に複雑な手続が予定されています。
米国などでは、プロベート裁判所に関する法律は、連邦法ではなく、各州ごとに適用される州法で定められていますので、プロベート裁判所における手続きは州ごとに異なります(但し、統一モデルが試みられています)。
このプロベート手続は裁判所が後見的に管理・監督する一種の清算手続であり、我が国における限定承認手続と「清算」の点で似ています。
プロベート(probate:プロベイトと日本語化されることもあります)は、不動産、動産、株式、預金などの遺産の種類や価額、所在地などによっても、手続が異なってきます。
プロベート手続きは、亡くなった方(被相続人)の遺言がある場合と、ない場合とで、大きく分かれます。
・遺言がある場合
遺言がある場合は、大まかな説明をしますと、プロベート裁判所における遺言の検認手続を経て、そこで遺言執行者が指定されていれば原則としてその遺言執行者がプロベート裁判所の監督を受けながら、被相続人の借金や税金などの債務を遺産から支払って、その残りを、遺言に従い、遺産の現物を引き渡し、又は、遺産を金銭に換えて分配することになります。
・遺言がない場合
遺言がない場合は、プロベート裁判所が遺産管理人を選任し、その遺産管理人が裁判所の監督下で法律に従った遺産分配手続を進めることになります。
英米法系の国にある銀行等の金融機関に預けた預金の相続においては、預金額等によって扱いは異なりますが、基本的にはプロベート手続を介して相続人は被相続人の預金を取り戻すことが想定されています。
プロベート手続が我が国の相続法と根本的に異なるのは、相続人が相続開始と同時に遺産を法律上当然に承継できるわけではないところにあります。
プロベート手続きは現地の裁判所の監督のもとに現地で進められますので、当該外国の弁護士などに手続きを依頼することが通常となります。そのため、費用(タイムチャージ【時間制】が一般的です)も時間も大陸法系の国々より相当かかる見込みであり、その分取り戻しの時間・費用・手間などの負担が重くなります。
取り戻しの時間は、遺産が不動産か、動産や預金などかによっても大きく異なるでしょうが、1年〜3年くらいかかるのが通常であると言われています。
費用額については、遺産の種類や遺産所在地などによっても、また、プロベート手続きを依頼する現地の法律事務所によっても大きく異なってきますので、あらかじめ一概に述べることはそもそも不可能であり、個別の事案ごとに検討するほかはないでしょう。