外貨預金の取り戻し~外国銀行発行の小切手を換金する方法は?

 

1 海外の銀行のなかでもとりわけ米国の銀行は、預金の取り戻しを求められて、最終的に預金の解約に応じる場合には、送金手段として小切手を使用することがほとんどのようです。

銀行間送金を求めても、返金方法は小切手だけに限定されると明言する銀行もあります。

小切手の方が送金額にかかわらず、費用が安価な郵便代だけで済むうえ、小切手の取り立てには時間がかかるので、それだけ預金を保有できる期間が長くなるメリットを認識しているからではないでしょうか。

2 相続により、又は相続とは関係なく口座名義人が何らかの事情で、米国など海外の銀行に預金(当然に外貨預金です)の解約を申し入れて取り戻すには、今日ではインターネット(オンライン)バンキングを利用できれば、その活用が最も確実に早く取り戻す方法となります。

しかし、そもそもはじめからインターネットバンキングを利用できない外国の銀行に預金する場合もあるでしょう。

また、インターネットバンキングは当初は作動していたところが、操作が複雑であったり、暗証番号を間違えて入力したことなどが原因となったりして、ロックしてしまい、その後はインターネットバンキングを使えなくなったというケースもあることでしょう。

3 経緯・事情は様々な場合がありえますが、手紙や電話等のアナログ的な手段で解約しなければならない場合には、一般的に時間も費用も手間も相当かかります。

首尾良くことがすすんで、いよいよ銀行側も返金するところまでこぎ着けて、最終的に預金が戻ってくるという段階になっても、まだ気は抜けません。

4 日本の銀行に直接送金してもらえる場合は、送金完了により一件落着となります。

しかし、送金手段が小切手の場合には、まだその取り立てという作業が残っています。

まず、受け取った小切手がどのような性質のものであるかにより、現金化の手間も時間も異なるでしょう。

5 預金の払い戻しを米国の銀行が小切手により行う場合には、通常、銀行自身が小切手の作成者になり、払い戻しを受ける者(預金者やその相続人)が受取人兼指図人とされる小切手が発行され、預金の受取人宛に郵送されてきます。

小切手上に「CASHIER’S CHECK(CHEQUE)」とか、これに似たような文言が記載されていれば、銀行自身が送金手段として作成した小切手である可能性が高いでしょう。

6 その小切手を現金化するには自分の口座がある日本の銀行に取り立てを依頼することが預金取り戻しの最終的なステップとなります。

外貨預金を取り扱っている銀行でも、米国の銀行が発行した英文で作成された小切手については取り扱っていないところがありますので、無駄な時間・手間を費やさないためにも、事前の確認は必ずしておきましょう。

以前あるインターネット上のサイトに、ある大手の都市銀行が外国銀行が振り出した小切手を買い取る場合と取り立てる場合の両方があるような記事を見かけたことがありましたが、現在(2017年7月時点)では、買い取りをしていないということで、取り立てのみを受け付けるとのことでした。

自分の口座のある銀行に取り立てを依頼することになりますが、海外の銀行が発行した英文で作成された小切手の取り立てを業務として行っていない銀行である場合には、大手の都市銀行など英文小切手の取り立てを受け付けてくれる銀行に口座を開設する必要があります。

大手の都市銀行でもすべての支店で外国銀行が発行する小切手を取り扱っているわけではありませんので、事前に電話等で取り扱いの有無を確認しなければなりません。その確認の仕方も、明確な問い合わせをしないと、間違えた回答を得てしまう場合があり得ますので、詳細に念を押しながら確認する必要があります。

その際に、応対に出た銀行員の名前を伺い、メモしておくべきでしょう。取り立てを依頼しに銀行に出向いたときに、何らかの話の行き違いのあったことが判明した場合には、事前に問い合わせしたときに対応してくれた銀行員の名前を出す必要に迫られることもあるからです。

7 小切手の取り立てに必要な書類等は通常以下のとおりですが、取り扱い銀行により異なり得ますので、事前に問い合わせしておきましょう。

・小切手原本
・口座の通帳原本:取り立てを依頼する銀行に自分の口座があることが必要です。
・上記口座の銀行届出印
・身分証明書:運転免許証又はパスポート
・マイナンバーカード又はマイナンバーを通知してきた書類の原本
・取り立て手数料:銀行・金融機関により異なりますが、2000円~5000円ほどがかかるようです。

マイナンバーカードが必要ではない場合もあるようなので、事前に取り立てを依頼する銀行支店に確認をしておく必要があります。

8 取り立ての受付が無事に終了したら、後は入金を待つだけとなります。

入金されるまでには通常1ヶ月ほどかかります。取り立てが完了して自分の日本の口座に入金されるまでに小切手を発行した海外の銀行が破綻しないことを祈るだけですね。

連載第3回目(最終回):スイスの銀行口座から、相続人はどのようにして預金(外貨預金)を取り戻したのか。

前回に引き続き、スイスの銀行口座(外貨預金)から相続された預金を解約し、海外送金を依頼して取り戻した経緯について紹介します。

前回は、スイスの銀行から預金相続に必要な書類について英文による回答書をいただいたところまででした。

上記回答書において、スイスの銀行から提出を求められた書類について、具体的に何をどのような手順で入手し、作成したらよいのか、おおよその見当がつきました。

そこで、当職は、相続された預金の取り戻しに必要な書類の作成・準備にとりかかりました。

実際には、必要書類を準備するのに1年近くがかかりました。A弁護士を介して多数の相続人に当職への委任状(Power of attorney)を作成していただきましたが、ひとつひとつの書類作成が手作業であり、その完成には最終的な署名認証書類として外務省のアポスティーユが必要となるため、時間と手間がかかりました。

東京の公証役場では、外国へ提出する書類の認証手続に精通していて、即日で必要書面が出来上がるのが通常です。

しかし、地方の公証役場では、外務省のアポスティーユが必要となる署名認証の取り扱いが少ないということもあり、その取得手続も当事務所が実質的には「代行」して行ったため、通常の何倍も時間がかかりました。

当職への委任状に各相続人が公証人の面前で署名し、それを公証人が署名認証し、その公証人の職務権限等について当該地方法務局長が認証し、さらに、外務省が「APOSTILLE」(アポスティーユ)のタイトルで始まる英文で当該地方法務局長の署名等を認証しました。

上記委任状には、各相続人がスイスの銀行にある遺産としての預金等をすべて解約し、当事務所名義の日本国内銀行口座に振込送金する方法で預金等の残金を取り戻す権限を当職に与えること、そのほか当該手続に必要となる一切の権限を当職に与えることが明記されました。

当職は、委任状作成依頼等の手続を進めながら、

・亡くなった被相続人の除籍謄本(国際相続では「死亡証明書」の代わりになることが多いです。)の英訳

・当職の宣誓供述書(Affidavit)の作成

などをして、必要書類の準備を着々と進めていきました。

除籍謄本の英訳は、当職が自分で行い、その翻訳が正しいことを公証人の面前で宣誓のうえ署名し、公証人の認証についても最終的に外務省のアポスティーユを付してもらいました。

宣誓供述書は、弁護士自身が自分の責任において、本件の被相続人が誰で、その相続人は日本の相続法に従うと誰であるのか、各相続人の法定相続分はそれぞれどのような割合となるのか、等を内容とする陳述書であり、内容が真実であることを宣誓したうえで、公証人の面前で署名し、最終的に外務省のアポスティーユを付して署名認証してもらったものです。

 

なお、各相続人の取り分が明記された遺産分割協議書が作成されていれば、スイスの銀行ではその効力をそのまま認めてくれるはずですので、これも相続預金の取り戻し手続きに必要な書類となります。そのため、遺産分割協議書のアポスティーユ付き翻訳書を添付して提出しなければなりません。

本件では遺産分割協議書が作成されなかったので、その代わりに、宣誓供述書を作成し、各相続人が日本国法の定める法定相続分で遺産となる預金を当然承継する旨を述べることにしました。

 

最初の問い合わせの手紙を出してからおよそ1年半が経過して、ようやく外貨預金の取り戻しに必要な委任状等の必要書類がすべて準備できました。

そこで、スイスの銀行に相続手続に必要な以下の各書類を添付した最終的な手紙を出しました。

・委任状(Powers of attorney)

・宣誓供述書(Affidavit)

・除籍謄本(CLOSED FAMILY REGISTER)

・日本弁護士連合会の証明書(CERTIFICATE)

 

その英文手紙の要点は、当職が、亡くなった口座名義人の全ての相続人から、口座の解約及び海外送金について委任を受けたので、解約・送金を求めるという意思を表明したことにあります。この手紙の外には特に「払戻請求書」のような定型書面は提出しませんでした。

添付書類の最後に出てくる日本弁護士連合会の証明書(CERTIFICATE)は、当職が日本弁護士連合会(日弁連)に所属する弁護士であることや、当事務所の名称・住所などを日弁連が英文で認証してくれたものです。これにより、スイスの銀行も海外送金先となる日本の金融機関の口座名義人が当事務所の当職であることなどを確認できることになります。

 

上記英文の手紙をスイスの銀行に郵送してから、3週間ほどで、当事務所の口座にスイスの銀行から預金残高全額の振り込みがあり、相続された海外預金を無事に取り戻すことができました。

 

本件の紹介は以上です。ここまでの3回にわたる長文をご覧いただいた方にはあらためて御礼申し上げます。何かのご参考になれば幸いです。

連載第2回目:スイスの銀行口座から、相続人はどのようにして預金(外貨預金)を取り戻したのか。

前回に引き続き、スイスの銀行口座(外貨預金)から相続された預金を解約し、海外送金を依頼して取り戻した経緯について紹介します。

前回は、東京の駐在員事務所からスイスの銀行で開設された口座に関しては直接スイスへお問い合わせくださいという連絡をいただいたところまででした。

そこで、当職は、早速、日本の駐在員事務所から教えていただいたスイス銀行のスイス国内の支店宛てに問い合わせの英文手紙を出しました。

スイスの銀行へ出した問い合わせの手紙は以下のとおりです。

DATE: May 20, ××××

FROM: Noboru Kayanurna

KAYANUMA KOKUSAI LAW OFFICE

Mikuni Yotsuya Bldg. 6F, 2-5 Samon-cho,

Shinjuku-ku, TOKYO 160-0017, JAPAN

TO: Swiss ×××,◯◯◯◯ Bank △.△ Branch Avenue ×× Geneva ××, Switzerland
Dear Sir or Madam:

Re: ASSETS IN THE NAME OF (被相続人名)

I am a Japanese attorney-at-law representing (相続人名), successors to (被相続人名) who deceased on the ◯◯th day of △△△△, ××××. I attach hereto a family relationship tree which shows that(相続人名) are the successors to(被相続人名).
(被相続人名) had the following assets in his name at the time of △△/××/○○○○

*PERSONAL ACCOUNT; CHF ×,×××

*MONEY MARKET PAPERS; CIIF ×,×××

TOTAL NET ASSETS; CIIF ×,×××

I attach hereto the copies of the documents showing the details of the above assets.
(相続人名)have requested me to cash the above assets in the name of (被相続人名).

Could you please send me application forms to refund the assets and please advise me anything necessary.
If anything further requires clarification, please advise me.
Yours faithfully,

Kayanuma Kokusai Law Office

(サイン)

per: Noboru, Kayanuma

 

この問い合わせの手紙は、それほど複雑な内容ではありません。

当職が、××年△月○○日に亡くなった方(被相続人)の相続人らを代理する弁護士であることについて、相続関係図(ここでは省略させていただきます)を添付して、はじめに自己紹介しています。

その次の段落では、亡くなった方がスイスの銀行に○○年△△月××日の時点で有していたスイス・フラン預金の内訳を提示しました。もちろん、スイスの銀行が作成した預金口座明細書の写しを裏付け資料として添付しています。

最後の段落では、当職の依頼人となる相続人らが亡くなった方の預金口座を解約して現金化することを求めているので、預金を解約するための解約申込書を送付していただきたい旨をお願いしました。そして、解約に必要なことについては何でもご教示願いたい旨も言い添えておきました。

最後に、何かご不明の点があれば、ご教示ください、という定型文で締めくくりました。

 

この手紙を出してから1ヶ月半ほどが経過して、スイスの銀行から以下のとおり返事が届きました。

Dear Mr. Kayanuma,

We refer to your letter dated May 20,××××, transmitted to us by our TTT Branch in Geneva.

As you are probably aware, Swiss banks are legally bound to observe strict banking secrecy and cannot therefore give any information to third parties regarding any supposing accounts before the necessary documents have been presented.

ln the case of a deceased customer, the following documents are required for each estate:

– the official documents issued by the authority of domicile of the deceased, certifying the death of the customer and the identity of the legal heirs (or the Executor, if any); these documents have to be duly translated by a sworn translator and legalised by the means of the Apostille, according to The Hague Convention of October 5,1961;

– a letter of instructions signed by all the heirs or by the Executor regarding the way the assets are to be disposed of; as their signatures are not known to us, they ought to be certified by an international bank;

– should the heirs or the Executor wish to entrust a third party with the settlement of the Estate, a Power of Attorney signed by all of them in favour of their attorney; their signatures and that of the attorney should also be certified as described above.

Yours sincerely,

△△△△ ○○○(サイン)

 

(日本語訳:意訳)

ジュネーヴにある私どものTTT支店から転送されてきた貴殿作成の××年3月20日付け手紙について述べます。

すでにご存じだと思われますが、スイスの銀行には法律上厳格な守秘義務が課されていますので、必要な書類が提示されないうちは第三者にはいかなる預金口座情報も開示することができません。

亡くなられた預金者の場合には、以下の書類が各遺産ごとに必要となります。

- 亡くなられた方の住居地所管の当局が発行する公的な書面。これは亡くなられた預金者の死亡を証明し、相続人であることを証明する書面です。もし、遺言執行者がいれば、その方の公的な身分証明書が必要となります。これらの書面は、宣誓した翻訳者によって正しく翻訳されなければなりません。その宣誓署名は、1961年10月5日付けハーグ条約に従い、外務省のアポスティーユ(APOSTILLE)により法的に証明されなければなりません。

- すべての相続人ら、または、遺言執行者によって署名された遺産の分割に関する書面。それらの署名は私どもでは確認できませんので、国際的な銀行による署名証明が必要となります。

- 相続人ら全員、または、遺言執行者の署名がある委任状。もし、相続人らまたは遺言執行者が第三者に遺産の取り戻しについて委任することをご希望されるならば、その代理人のための委任状が必要となります。それら全員の署名及び代理人の署名は、上記の通りの署名認証が必要となります。

 

上記回答書において、スイスの銀行が提出を求めてきた書類について、具体的に何をどのような手順で入手し、作成したらよいのか、おおよその見当がつきました。

ただし、「国際的な銀行による署名証明」はどのように取得するのか、がよくわかりませんでした。

そこで、スイスの銀行の東京駐在員事務所に問い合わせました。

そうしたら、公証役場で取得できる外務省のアポスティーユ付き署名証明で足りるという回答がありました。

 

重要なことですので、ここで補足説明をします。

スイスの銀行が求めてきた相続に必要な書類は、日本国内の銀行が相続人らに求める書類とほぼ同じだということです。

国内の銀行等との違いは、預金解約の意思表明や相続関係を裏付ける資料が英文で示される必要があること、そして相続人全員の署名及び代理人の署名が外務省のアポスティーユにより最終的に署名証明される必要があること、だけです。

スイスの相続法が日本の相続法と基本的な考え方が同一であるため、当事務所とスイスの銀行との間の直接交渉のみで、外貨預金の相続による取り戻しができたのです。スイスの法律事務所を間に入れる必要はありませんでした。

 

以上に対して、英米法系の国に所在する銀行に預けられた外貨預金の取り戻しは、本件のようにシンプルには進みません。英米法系の場合については、また別の機会に紹介します。

 

今回の紹介はここまでです。次回は最終回で、日本国内でスイスの銀行から相続預金を取り戻すために準備した書類について具体的に紹介します。

ここまで読んで下さった方にはあらためて御礼申し上げます。

連載第1回目:スイスの銀行口座から、相続人はどのようにして預金(外貨預金)を取り戻したのか。

相続人の代理人として、海外の金融機関であるスイスの銀行口座から、どのようにして相続された預金(外貨預金)を取り戻したのか。

昨今、我国の経済発展の成果が個人の資産増加にも恩恵をもたらし、日本人の金融資産は、外国株式を外国の証券会社の口座に預ける形にしたり、海外の銀行に外貨預金として預けたりするケースが著しく増えて来ています。

さて、今回、紹介するケースは、スイスのある大手の有名銀行(以下、「スイスの銀行」と簡単に言います)にスイス・フランという外貨による口座を開いて、当時の日本円にして1,000万円ほどを預けたまま亡くなった方の相続人からご依頼を受けて、スイスの銀行と直接交渉をして預けてあった外貨預金を取り戻したものです。

外貨預金の取り戻しは、遺産となる外貨預金に関する国際相続手続として行われます。

国際相続手続は外貨預金の預け先となる海外の銀行などの金融機関に対して、預金契約を解約して当該口座に残る一切の預金残を日本の金融機関口座への海外送金を依頼することになります。

そのための必要書類を準備して提出するという一連の流れがそこでの相続手続となります。

その最終目標は、海外から日本の金融機関に遺産としての外貨預金を海外送金してもらい、取り戻すことです。

なお、海外の金融機関に預けてある預金を解約して、その場で払い戻しを受けること、つまり、引き出すことは、特別に現地にいる場合でないと時間・費用の点で現実的ではないので、実際には外国の銀行などに相続手続の仕上げとして海外送金をお願いすることが通常です。

 

それでは、本件では具体的にどのような必要書類を準備して取り戻すことが出来たのか、皆様のご参考までに紹介させていただきます。

なお、以下の事案は実際のものとは異なりますが、手続の本質的な部分については、変更しておりません。

本件では、相続人が10名程いらっしゃいました。当事務所への直接のご依頼者は、そのうちの1名のみでした。

遺産相続案件において、最初に弁護士が注意しなければならないことは、遺産相続の場面では相続人間には潜在的に常に利害相反の関係があることです。

これはどういうことかと言いますと、相続において、亡くなった方(「被相続人」と言います。)が有していた遺産というパイは大きさが一定に決まっています。一人の相続人の取り分が増えるということは、他の相続人の取り分が減るので、相互の利害関係が潜在的に対立する状況があることを意味します。

そこで、海外の銀行などに預けた外貨預金を無事に取り戻すことは全ての相続人に共通の利益をもたらしますので、全ての相続人の方がその意味を理解して、当事務所には相続人間の紛争を持ち込まないことが受任の前提となります。

つまり、すべての相続人が同じ方向に顔を向けて対外的に海外遺産を取り戻すことに限定した案件として当事務所に依頼することを了承していただいた場合に、当事務所は相続人全員からのご依頼を受けることにしています。

ここで紹介する、スイスの銀行からの外貨預金取り戻し案件では、当事務所は共同相続人の一人だけからご依頼を受け、その他の共同相続人は別の弁護士に依頼することになりました。

他の相続人は皆さん地方在住の方であり、当職がそこに出向くのは時間・費用の点で効率が極端に悪くなるため、その地方に事務所を開設していたA弁護士が他の共同相続人のとりまとめ役となりました。

外国の銀行から預金を取り戻す手続において、一部の相続持分だけを取り戻すというのはこれも効率が悪い話ですから、他の共同相続人から依頼を受けたA弁護士から他の共同相続人の取り分についてはさらに当職が依頼を受ける形を取りました。

そして、当職が相続人全員の窓口となり、スイスの銀行と交渉し、そこに預けてあった外貨預金全部を一度に取り戻すことになりました。相続人が多かったのでここまでの手続で相当な手間と時間がかかりました。

 

それでは、具体的にどのような手順でスイスの銀行と交渉し、どのような書面を外貨預金の国際相続手続における必要書類として作成・提出したのかについて話を進めていきます。

スイスの銀行は東京に駐在員事務所を開いていることがわかりました。そこで、最初にその駐在員事務所に外貨預金の取り戻し方法について電話・手紙により相談しました。

そこで伝えたことの概要は以下のとおりです。駐在員事務所には日本人スタッフがいましたので、日本語でのやり取りができました。

W氏(被相続人)の預金取り戻しの件

W氏はスイスの銀行に預金をしていたこと

証明資料:スイスの銀行が作成してW氏に郵送していた英文の預金明細書(Bank Statement)

W氏が亡くなったこと

W氏の相続人らが預金の取り戻しを希望しているので、その手続についてご教示願いたいこと

を伝えました。

 

その駐在員事務所からの回答は概要以下のとおりでした。

スイスで開設された口座に関しては直接スイスへお問い合わせください。日本の駐在員事務所では取り扱いできません。

下記スイスの支店宛てに英文(FAXではなく、手紙)でもう一度照会してください。状況を説明し、遺産相続手続きの必要書類をお尋ねください。その際には、英文で作成した相続関係図を添付してください。

スイス支店の名称、住所の表示

 

そこで、当職は、日本の駐在員事務所から教えていただいたスイス銀行のスイス国内の支店宛てに問い合わせの手紙を英文で作成し出しました。
今回紹介できる手続きはここまでですが、具体的に英文サンプルの準備ができたところでご参考までにこのブログで引き続き紹介いたします。ここまで読んで下さった方には御礼申し上げます。

英米法系の国にある外国銀行からプロベート手続抜きで弁護士の宣誓供述書の活用により外貨預金を取り戻した件

 

1.英米法系の国におけるプロベート手続きについて

 

イギリスをはじめとして、かつてイギリスの植民地であった米国、オーストラリア、カナダ、香港、シンガポールなどの国においては、相続手続に関する考え方が我が国とは大きく異なり、一般的にプロベート裁判所が関与する非常に複雑な手続が予定されています。

不動産、動産、株式、預金などの遺産の種類や価額、所在地などによっても、プロベート手続が異なってきます。

米国などでは、プロベート裁判所に関する法律は、連邦法ではなく、各州ごとに適用される州法で定められていますので、プロベート裁判所における手続きは州ごとに異なるという複雑さです。カリフォルニア州のプロベート法(CALIFORNIA PROBATE CODE)は条文の分量も多く、その「一部」を試しに印刷してみたら、A4版で厚さが約2センチメートルになりました。

プロベート裁判所における手続きは、亡くなった方(被相続人)の遺言がある場合と、ない場合とで、大きく分かれます。

大まかな説明をしますと、遺言がある場合は、プロベート裁判所における遺言の検認手続を経て、そこで遺言執行者が指定されていれば原則としてその遺言執行者がプロベート裁判所の監督を受けながら、被相続人の借金や税金などの債務を遺産から支払って、その残りを、遺言に従い、現物を引き渡し、又は、金銭に換えて分配することになります。

遺言がない場合は、プロベート裁判所が遺産管理人を選任し、その遺産管理人が裁判所の監督下で法律に従った遺産承継手続を進めることになります。

英米法系の国にある銀行等の金融機関に預けた預金の相続においては、預金額等によって扱いは異なりますが、プロベート手続を介して相続人は被相続人の預けた預金を取り戻すことが想定されています。

我が国の相続法と根本的に異なるのは、相続人が相続開始と同時に遺産を法律上当然に承継できるわけではないところにあります。

 

プロベート手続きは現地の裁判所の監督のもとに現地で進められますので、当該外国の法律事務所の弁護士などに手続きを依頼することが通常となります。そのため、時間も費用も相当かかることを覚悟しないといけないでしょう。

費用については、遺産の種類や遺産所在地などによっても、また、プロベート手続きを依頼する現地の法律事務所によっても大きく異なってきますので、あらかじめ一概に述べることはそもそも不可能であり、述べること自体に意味があるとは思えません。これは個別の事案ごとに検討するほかはないでしょう。

2.プロベート手続抜きで外貨預金を取り戻すのに、どのような宣誓供述書を活用したのか?

上記のとおり、英米法系の国にある金融機関から相続財産としての預金を取り戻すには、通常プロベート裁判所の関与が必要となりますが、預金額等の諸事情によっては、プロベート手続き抜きで取り戻すことのできる場合があります。当事務所では、プロベート手続抜きで外貨預金を取り戻した案件も扱ったことがありますので、ご参考までに紹介させていただきます。

以下の事案は実際のものとは異なりますが、本質的な部分は変えてありません。また、以下のとおりに宣誓供述書を作成すれば、必ず取り戻せるという話にはなりませんので、ご注意をお願い申し上げます。

さて、亡くなった方は、日本に住所があり、相続人は夫と亡くなった方の母親の2人だけでした。そのため、日本国の相続法によりますと、法定相続分は夫が2/3で母親が1/3ということになります。仮に、相続人が配偶者と子供たちの場合でも、以下の宣誓供述書の内容は通じるはずです。

ご依頼者(夫)は英語が堪能な方でしたので、ご自分である程度当該外国銀行との間で事前の交渉ができていました。そのため、宣誓供述書の作成だけをご依頼されました。

ここで、当職が作成した英文による宣誓供述書の概要を以下のとおり示します。

① 当職の経歴
この内容は、当事務所のホームページに紹介してある当職の経歴をほぼそのまま英訳したものに、若干当事務所の主たる業務の内容を付け加えた程度です。

裏付け資料として、オーストラリア・シドニー大学法科大学院修士課程修了証書のコピー及び日本弁護士連合会(日弁連)の証明書(CERTIFICATE)を添付しました。日弁連の証明書は、当職が日弁連に所属する弁護士であることや、当事務所の名称・住所などを日弁連が英文で認証してくれたものです。

② 被相続人の死亡年月日及び場所
除籍謄本に基づいた情報を記載しました。

③ 日本の戸籍制度の概略

④ 相続人は誰か
日本国の相続法及び戸籍に基づいた本件相続人の氏名及び各法定相続分を具体的に記載しました。

⑤ 配偶者が法定相続人であること
戸籍に基づいてご依頼者が被相続人と結婚していた事実、日本国の相続法によると配偶者が法定相続人となることを記載しました。

⑥ 母親が法定相続人であること
日本国の相続法第889条第1項の規定により、子どもが相続人とならない場合には、親が次順位で相続人となることを記載しました。

⑦ 遺言がない場合の日本における相続
本件では遺言がありませんでしたが、日本国の相続法の下では、遺産管理状の発令(a grant of Letters of Administration )を裁判所に求める必要がないこと、相続人は法律上当然に遺産の承継ができることを記載しました。

⑧ 共同相続の場合の法律関係
日本国の相続法では、相続人が2人以上いる場合、遺産は「共有」となり、権利も義務も法定相続分に応じて共同で承継される定めとなっていることを記載しました。

⑨ 本件の具体的な相続持分の割合
・夫が3分の2であること
・母親が3分の1であること
を条文を引用して記載しました。

⑩ 共同相続人の権限
日本国の相続法の下では、検認許可状や遺産管理状の発令などプロベート手続きに関する規定がないこと、その代わり、日本国の民法においては、共有財産について過半数の共有持分を有する共有者は「管理行為」ができること、それ以下の持ち分しかない共有者でも「保存行為」はできることを記載しました。

⑪ ご依頼者(夫)は遺産の管理行為ができること
日本国の相続法の下では、ご依頼者は遺産について3分の2の持分を承継しているので、他の共同相続人である母親の同意を得ることなく遺産について管理行為をすることができることを記載しました。

⑫ 同一名義人の銀行口座間の送金は保存行為又は管理行為に該当すること
日本国の民法においては、同一名義人に関する銀行口座間の送金は保存行為又は管理行為に該当すると解されるので、3分の2の共有持ち分を有するご依頼者は、本件被相続人の預金がある海外の銀行に対して保存行為又は管理行為として被相続人名義の他の銀行口座への送金を求めることができることを記載しました。

以上が、本件に関して当職が作成した宣誓供述書の概要となります。

3.まとめ

上記の通り、ポイントとなったのは、外国の銀行に依頼したことが、亡くなった被相続人名義の日本国内口座への振り込みであったことです。外国の銀行と日本国内の銀行間において、口座の名義人自体は同一で被相続人となります。

なお、当職の宣誓供述書は、公証人の面前で、内容が真実であることを宣誓して署名し、これに公証人の認証等及び外務省のアポスティーユを付してもらったものでした。

当職の宣誓供述書等を当該外国の金融機関に送付してから2ヶ月ほどで日本国内の金融機関の被相続人名義口座に残預金が海外送金されてきたというご報告をいただきました。

本件の紹介は以上です。ここまでご覧いただいた方にはあらためて御礼申し上げます。何かのご参考になれば幸いです。