相続人の代理人として、海外の金融機関であるスイスの銀行口座から、どのようにして相続された預金(外貨預金)を取り戻したのか。
昨今、我国の経済発展の成果が個人の資産増加にも恩恵をもたらし、日本人の金融資産は、外国株式を外国の証券会社の口座に預ける形にしたり、海外の銀行に外貨預金として預けたりするケースが著しく増えて来ています。
さて、今回、紹介するケースは、スイスのある大手の有名銀行(以下、「スイスの銀行」と簡単に言います)にスイス・フランという外貨による口座を開いて、当時の日本円にして1,000万円ほどを預けたまま亡くなった方の相続人からご依頼を受けて、スイスの銀行と直接交渉をして預けてあった外貨預金を取り戻したものです。
外貨預金の取り戻しは、遺産となる外貨預金に関する国際相続手続として行われます。
国際相続手続は外貨預金の預け先となる海外の銀行などの金融機関に対して、預金契約を解約して当該口座に残る一切の預金残を日本の金融機関口座への海外送金を依頼することになります。
そのための必要書類を準備して提出するという一連の流れがそこでの相続手続となります。
その最終目標は、海外から日本の金融機関に遺産としての外貨預金を海外送金してもらい、取り戻すことです。
なお、海外の金融機関に預けてある預金を解約して、その場で払い戻しを受けること、つまり、引き出すことは、特別に現地にいる場合でないと時間・費用の点で現実的ではないので、実際には外国の銀行などに相続手続の仕上げとして海外送金をお願いすることが通常です。
それでは、本件では具体的にどのような必要書類を準備して取り戻すことが出来たのか、皆様のご参考までに紹介させていただきます。
なお、以下の事案は実際のものとは異なりますが、手続の本質的な部分については、変更しておりません。
本件では、相続人が10名程いらっしゃいました。当事務所への直接のご依頼者は、そのうちの1名のみでした。
遺産相続案件において、最初に弁護士が注意しなければならないことは、遺産相続の場面では相続人間には潜在的に常に利害相反の関係があることです。
これはどういうことかと言いますと、相続において、亡くなった方(「被相続人」と言います。)が有していた遺産というパイは大きさが一定に決まっています。一人の相続人の取り分が増えるということは、他の相続人の取り分が減るので、相互の利害関係が潜在的に対立する状況があることを意味します。
そこで、海外の銀行などに預けた外貨預金を無事に取り戻すことは全ての相続人に共通の利益をもたらしますので、全ての相続人の方がその意味を理解して、当事務所には相続人間の紛争を持ち込まないことが受任の前提となります。
つまり、すべての相続人が同じ方向に顔を向けて対外的に海外遺産を取り戻すことに限定した案件として当事務所に依頼することを了承していただいた場合に、当事務所は相続人全員からのご依頼を受けることにしています。
ここで紹介する、スイスの銀行からの外貨預金取り戻し案件では、当事務所は共同相続人の一人だけからご依頼を受け、その他の共同相続人は別の弁護士に依頼することになりました。
他の相続人は皆さん地方在住の方であり、当職がそこに出向くのは時間・費用の点で効率が極端に悪くなるため、その地方に事務所を開設していたA弁護士が他の共同相続人のとりまとめ役となりました。
外国の銀行から預金を取り戻す手続において、一部の相続持分だけを取り戻すというのはこれも効率が悪い話ですから、他の共同相続人から依頼を受けたA弁護士から他の共同相続人の取り分についてはさらに当職が依頼を受ける形を取りました。
そして、当職が相続人全員の窓口となり、スイスの銀行と交渉し、そこに預けてあった外貨預金全部を一度に取り戻すことになりました。相続人が多かったのでここまでの手続で相当な手間と時間がかかりました。
それでは、具体的にどのような手順でスイスの銀行と交渉し、どのような書面を外貨預金の国際相続手続における必要書類として作成・提出したのかについて話を進めていきます。
スイスの銀行は東京に駐在員事務所を開いていることがわかりました。そこで、最初にその駐在員事務所に外貨預金の取り戻し方法について電話・手紙により相談しました。
そこで伝えたことの概要は以下のとおりです。駐在員事務所には日本人スタッフがいましたので、日本語でのやり取りができました。
記
W氏(被相続人)の預金取り戻しの件
W氏はスイスの銀行に預金をしていたこと
証明資料:スイスの銀行が作成してW氏に郵送していた英文の預金明細書(Bank Statement)
W氏が亡くなったこと
W氏の相続人らが預金の取り戻しを希望しているので、その手続についてご教示願いたいこと
を伝えました。
その駐在員事務所からの回答は概要以下のとおりでした。
記
スイスで開設された口座に関しては直接スイスへお問い合わせください。日本の駐在員事務所では取り扱いできません。
下記スイスの支店宛てに英文(FAXではなく、手紙)でもう一度照会してください。状況を説明し、遺産相続手続きの必要書類をお尋ねください。その際には、英文で作成した相続関係図を添付してください。
記
スイス支店の名称、住所の表示
そこで、当職は、日本の駐在員事務所から教えていただいたスイス銀行のスイス国内の支店宛てに問い合わせの手紙を英文で作成し出しました。
今回紹介できる手続きはここまでですが、具体的に英文サンプルの準備ができたところでご参考までにこのブログで引き続き紹介いたします。ここまで読んで下さった方には御礼申し上げます。